特産品ができるまで

吉野杉箸が生まれるまで

更新日:2012年02月01日

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かわいい和紙でくるまれた
ひとまわり小さい「お子様箸」

ぬくもりがあり、手触りがやわらか。

かつ、ほのかな杉の香りで食卓を華やかに演出する

高級割り箸「吉野杉箸」。

下北山村には長年、地元の吉野杉を使った杉箸を作っているメーカーがあります。

ひとつひとつ丁寧に作られた料亭・ホテル御用達の高級品。

ここではその作り方をご紹介いたします。

【1】吉野に育つ高級建築材

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下北山村の浦向から奥山を望む

寺社仏閣やお城の高級建築材として

およそ500年前の室町時代から

愛用されてきた「吉野杉」。

節(フシ)が少なく真っ直ぐで、

色つやがよく年輪が細かいため

強くて美しい柱をとることができます。

吉野杉は1ヘクタール(100m×100m)におよそ1万本の苗木を植えます。

下草刈りをしながら25年たったころに枝打ち。

何年かおきに間伐を行いながら、さらに50年育てて節を隠します。

柱材(はしらざい)になるまで最低75年。

直径30センチほどの木に育ったら切り倒します。

丸太の中央の部分で、一辺が10センチほどの赤みのある

材木を切り出すことができます。

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悠々と流れる熊野川

下北山村では昔は切り出した杉の丸太を

筏に組み、北山川から熊野川に流して

新宮の製材所に運んでいました。

30年前までは尾鷲から新宮にかけて

およそ50件の製材所があったと言います。

(今は材木問屋に出荷するような製材所は5件ほどになってしまいました)

一方、分水嶺より北の川上村は吉野川に流し、

下市や五條の製材所に丸太を運んでいました。

だからそうした製材所の周辺には、材木を取ったあとの端材(はざい)を使った

桶屋や箸屋がたくさんあったのです。

割り箸は主に丸太の外側の白い部分を使います。

一方、桶屋は、丸太の中心に近い赤い部分が桶の内側に、

白い部分が桶の外側になるよう、赤い部分と白い部分の境目を好んで使います。

こうして、製材所で出る廃材を有効利用してきたのでした。

【2】背板を裁断します

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背板を円盤で裁断してゆきます

柱材を切り出したあとの丸太の外側の部分を

「背板(せいた)」と言います。

これを箸の長さにあわせ、高速で回転する

円盤状ののこぎりでゆっくりと「横挽き」してゆきます。

ゆっくりと切ることで、断面がつるつるになるのです。

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木目がつまっていて美しい吉野杉

しかし北に向いていた方の木材は

目が詰まり過ぎていて硬いので、

箸作りには使わないそうです。

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美しい年輪が平行に 幾筋も現れる吉野杉箸

このあと吉野杉箸は年輪と直角に木を切る

「柾目挽き(まさめびき)」で板を作ります。

これによって箸の表面に美しい縞模様が表れ、

またスパッと真っ直ぐに割れる気持ちの良い箸になるのです。

ちなみに外材の安い箸は、年輪と平行に切る「板目挽き(いためびき)」で板を作ります。

無駄が少ないという利点がある反面、パチンと割ったときに斜めになることが多いのはそのためです。

【3】カンナで削ります

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「柾挽き」するための機械に 木材を入れています

次は木材を箸の厚み5.8ミリに合わせて裁断します。

昔は斧で割っていたそうですが、

この機械を導入したため一日がかりでやっていた仕事が、

一時間でできるようになったそうです。

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ベルトコンベアに乗って 流れてくる箸の卵たち

いきなり箸のようなサイズになりましたが、

よく見ると厚みは箸でも横幅がまちまちです。

中には外皮がついているものもあります。

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「柾挽き」しただけの箸の原型

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カンナから出る削り屑

これを次に、カンナで削って上面と下面を滑らかにします。

機械で削るのであっという間。刃の上に薄い削り屑が次々と出てきます。

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一昼夜水に浸します

この箸の原型を束ねて、山の沢水に一昼夜浸します。

浸したら水槽から出し、半日ほど水切りをします。

これによって木が柔らかくなりますから、

最後の成型で刃こぼれを防ぐことができます。

また、木にねばりが出てきますので箸の真ん中に途中まで割れ目を入れても、

箸がパチンと裂けてしまわないのです。

【4】成型してさらに削ります

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左側にある二本のレバーが 刃の部分です

ここからは最後の成型過程。

しっとりと濡れた箸の原型を、

めまぐるしくスライドする刃に沿わせて

手際よくはめ込んでゆきます。

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四角い削り屑が散らばっている
「天削げ」行程

右側の刃で箸の横幅をそろえ、

半端な部分を切り落とします。

左側の刃で箸の途中まで切り込みを入れます。

途中まで来ると刃がスッと上に上がるので、

根元まで割れないようになっているのです。

その箸が流れていって、次は持ち手の部分を斜めに切り落とす

「天削(てんそ)げ」を行います。

木目が美しい「吉野杉箸」のトレードマークでもありますね。

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細長い削り屑が散らばる 「面取り」行程

続いて箸の口に入れる部分を「面取り」します。

箸先は既に二つに割れているので、

それをちょっと斜めにずらしながら四隅を削ります。

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見事に並んだ「箸の花」

成型した箸を、出窓で風に当てながら乾かします。

これを「箸の花」と呼ぶそうです。

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丸みを帯びた箸先

「面取り」してあるので、箸先の断面は

かわいい小判型になっています。

これで口に入れたときの風合いが

ぐっとやさしくなるのです。

ちなみに製造工程で発生する箸の「おが粉」は、三重県の畜産農場で引き取ってもらい、

牛舎の敷き藁代わりに使ってもらっているそうです。

その「おが粉」と牛糞を半年ほど醗酵させると、良質の牛糞堆肥が完成。

三重県御浜町のみかん農家で使われているとのことです。

【5】手削り杉箸

「吉野杉箸」には機械で削る箸のほかに、手で一本一本削るもっと高級な箸もあります。

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箸になるのを待っている
薄板の山

「柾挽(まさび)き」できないほどの薄さの板や、丸太で手に入った材木については

斧で形を整えてから箸を削り出します。

それをアルミ製品の特注カンナで一本一本削り、さらに面取りをしてゆくのです。

こういう手作業の高級「取り箸」は、京都の箸専門店などから注文が来るのだそうです。

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パカン!と乾いた音で割れる杉の木材

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赤味のある木の中央部分

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手削り箸の代表「利休箸」

また千利休が来客の度に毎朝削って作ったといわれる

「利休箸(りきゅうばし)」も一本一本手で削られます。

「利休箸」の両端が細くなっているのは、

片方は「神様が使う方」と考えられているからだそうです。

「利休箸」には柿渋が塗られるものがありますが、こうすることによって強度が増し

水をはじくので繰り返し使え、また水分を吸収しないので驚くほど軽い箸に仕上がるのです。

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