「聖地」の四季と伝説
(紅葉の「前鬼・不動七重の滝」)
ここでは下北山村を代表する探勝地であり、
かつ様々な伝説に彩られた「隠れた聖地」もある
「七重不動の滝」、「石ヤ塔」、「明神池」の三か所を
ご紹介いたします。
関西髄一の名瀑 前鬼・不動七重の滝
「前鬼・不動七重の滝」の知られざる力と魅力を
奥義の中の奥義である「修行の秘密」と共に、
じっくりとご紹介いたします。
車でのアクセス
(「展望所」から望む「前鬼・不動七重の滝)
総落差およそ160m、「日本の滝百選」にも選ばれている
関西随一の豪瀑、「前鬼・不動七重の滝」です。
上の写真の右上の滝が、
上から3段目・落差80mの「大滝」。
4段目、5段目と小ぶりの滝と美しい滝壺が連続し、
写真左下は落差30m、上から6番目の滝です。
(前鬼口の看板)
ここにたどり着くためにはまず、
国道169号線下北山村の北の玄関口
白い「前鬼橋」たもとの「前鬼口」から林道に入ってください。
春には艶やかなミツバツツジを眺めながら
約6キロ進んだところに
「前鬼不動七重の滝 森林浴歩道」
と書かれた看板があります。
(林道脇に3台程度車を止められます。)
(遊歩道入口の看板)
そこを通り過ぎて100m進むと、
ガードレール越しに落差40mの7段目の滝と
美しい渓流が望めるビューポイントがあります。
さらに600m行くと、滝を真正面から望む「展望所」。
新緑や紅葉のシーズンは多くのカメラマンで賑わいます。
(5~6台は止められる駐車スペースがあります)
もうあと100m進みトンネルを抜けた地点にも、
3段目の「大滝」を斜め横から望むスポットがあります。
豪雨の後はいつも落石が起こって通行止めとなる
かなりワイルドな林道ですが、
随所に輝くばかりの自然林が残り
6月には林道沿いでホタルも若干見られます。(※)
※(村役場の近くにはホタルが乱舞する場所があります。
①役場前の国道425号線を1kmほど北に行った地点にある
住吉神社付近と、
②逆に役場前の国道を南下し、
西に折れて十津川方面に1kmほど進んだ「奥地」という集落あたり。
どちらもカジカが鳴く美しい清流です。
ただし大水が出たりすると、ホタルの発生場所が変わることがあります。
役場にお問い合わせください。代表番号・07468-6-0001)
前鬼・不動七重の滝 森林浴歩道
(連続する滝壺中央の滝が上から6段目)
「前鬼不動七重の滝 森林浴歩道」の看板から、
階段状のジグザグ道を谷底まで下ります。
標高差およそ100m。
そこから川沿いに平坦な小道を歩き、
鉄製の頑丈な吊り橋を渡ります。
吊り橋を渡ったら左に折れて林を抜けると、
目の前に天国的な風景が広がります。
清流と透き通った淵が次々と現れ
春にはシャクナゲ、初夏にはカワツツジ(原種のサツキ)が
あちらこちらに咲き誇り、
水面(みなも)から顔をのぞかせた岩の上では
カジカが「ヒョロロロロ・・・」と
澄んだ声を響かせます。
気をつけていれば
「キングフィッシャー」の名を持つ
翡翠(ひすい)色のカワセミが、
パシャリと水に飛び込む瞬間を
見ることができるかもしれません。
(河原の終点から眺める七段目の滝。
岩に隠れて見えませんが、実はこの滝の手前に
八段目となる落差3mの小さな滝があります)
そこから縞模様の美しい岩を越えてしばらく行くと、
やがて右手の崖にアルミの急階段が現れます。
およそ900段ある階段を登り降りしながら15分ほど進むと、
3段目「大滝」の真横に出る「滝見台」。
ここで水飛沫(みずしぶき)と瀑音の洗礼を受けましょう。
見下ろすとエメラルドグリーンの滝壺が広がり、
さらに4段目、5段目の滝もはっきりと見て取れます。
晴れた日には「大滝」の中ほどによく虹がかかりますが、
谷が深いため午後3時ごろには日陰になるのでご注意ください。
(リンドウ)
時間が許せば、
陽の当たる河原でゆっくりと休憩いたしましょう。
谷に響き渡るホンドジカの
「ピョーッ!」という声に耳を澄まし、
サワサワと木の葉を揺らす川風に吹かれながら
岩に腰かけていると、
深山幽谷に住む
仙人のような心境になるかもしれません。
行程表
▼国道169号線「前鬼口」 (標高約300m)
↓ 林道で6km: 車10分/徒歩約1時間50分 ↑ 林道: 車10分/徒歩約1時間半
▼「前鬼・不動七重の滝 森林浴歩道」入口 (標高約400m)
↓ 急坂を下る: 徒歩約15分 ↑ 急坂を登る: 徒歩約25分
▼吊り橋 (標高約300m)
↓ 河原を遡る 300m: 徒歩約15分 ↑ 河原を下る: 徒歩約15分
▼アルミ階段登り口 (標高約300m)
↓ 階段を登る 900段: 徒歩約20分 ↑ 階段を下る: 徒歩約10分
▼「大滝展望台」 (標高約350m)
行程 |
片道約1.1km(初級~中級コース) |
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所要時間 |
「前鬼・不動七重の滝 森林浴歩道」入口から「大滝展望台」まで 行き約50分 + 帰り約50分 (休憩は含みません) |
(上から3段目 「大滝」の滝壺)
幻の奇勝 石ヤ塔
生い茂る原生林の中で奇岩・奇石がそびえたつ
壮大な自然の彫刻です。
100m近くある無数の岩塔と
その背後の絶壁の間に霧が回り込むと、
塔が立体的に浮かび上がり、
「ここは日本だろうか」と思うくらいの「仙境」の趣を呈します。
幽玄極まりない梅雨期の「霧の石ャ塔」や、
岸壁と紅葉のコントラストが美しい
「秋の石ャ塔」が特に人気で、
多くのカメラマンが押し寄せます。
(谷底から見上げた「石ヤ塔」)
アクセス
国道169号線の「池郷交差点」から国道425号線に入り、
「南都銀行」の手前を右折。
「石ヤ塔」と書かれた看板を頼りに、Y字路を左に入って山肌を登ります。
そこから6キロ余り進むと、展望スポットにたどり着きます。
ただし林道は尖った落石が多く、車同士の対向も待避所でしかできません。
ガードレールの無い箇所や、路面が陥没しているところもあります。
タイヤがパンクすることもありますので、十分にお気を付けください。
役行者が開いた神秘の池「明神池」
現代においても様々な奇跡が目撃されている
「水神」の住まう池「明神池」。
役行者が惚れ込み
「大峯禅定(ぜんじょう)の秘所」とまで呼ばれた
神秘なる池の
驚くべき素顔をご紹介いたします。
(「明神池」のほとりにたたずむ「池神社」)
まつられているのは役行者!? 「大峯禅定の秘所 池之峯」
(静けさに包まれた秋の「明神池」 カワセミのつがいが棲息しています)
国道169号線を吉野から南に向かいます。
懸崖(けんがい)の山道を抜け「池原ダム」を過ぎ、
眼下に「きなりの郷」のにぎやかなバンガローが見えた辺りに
村内では唯一の信号「上池原交差点」が現れます。
そこで右に折れて国道425号線へ。
ヘアピンカーブが連続する「池原坂」をグイグイ登り、
2キロ余り進むと突然
森に囲まれた神秘的な池が現れます。
周囲およそ1キロメートル。
奈良県内では最も大きい天然池「明神池(みょうじんいけ)」です。
池のほとりには、役行者が神気に打たれて開いたとされる
「池神社(いけじんじゃ)」がまつられています。
(秋祭りの「池神社」)
「池神社」の主祭神は
「市杵島姫命(いちきしまひめのみこと)」。
本殿に拝むときは池を背にしなければなりませんが、
本来「池神社」の「御神体」は「明神池」そのものであり、
道路を挟んだ反対側には池に向かってお参りするための
小さなお社(やしろ)も建っています。
忘れずに両方にお参りいたしましょう。
明治元年(1868年)の「神仏判然令」より前、
「池神社」は「池峯大明神」と呼ばれ親しまれておりました。
「池神社」の氏子総代も務めた
さる村人のひ孫によると、
江戸時代まで「池神社」の中の御神像は
「錫杖を持ち膝を曲げていた」ということです。
つまり御神像は役行者、
ここは役行者をまつる社(やしろ)であったということです。
(忍び寄る秋の気配。「釈迦ヶ岳」直下の森)
しかし明治元年の「神仏分離令」により、
神社と名を変えなければならなくなりました。
そこで神社の関係者たちが集まって
「池が御神体なのだから
御祭神は市杵島姫命(いちきしまひめのみこと)にしよう」
と密かに決めたのだそうです。
しかし御神像を政府による破壊から守るため、
関係者は像を完全な秘仏とし、
それが何であるかについて一切口外しないことを誓い合いました。
ただ、自分の子孫にだけはそのいきさつを語ったのです。
「お前たち、池神社の秘密をよく覚えておけよ」と。
元氏子総代はこの秘密を娘に伝え、
その話がさらに孫娘に伝えられました。
伝承を聞いた池原に住む女性は、
現在88歳(2011年現在)です。
(「池神社」の本殿。屋根の上の「千木(ちぎ)が
「外削ぎ(そとそぎ)」になっていることから
男神をまつる神社であることが分かります)
事実、「前鬼」にいた「五鬼助(ごきじょ)」家の人が、
池峰集落に移り住んで
宮司を務めていたこともあるそうです。
(「池之峯」とは、池峰の古い呼び名です)
神仏習合の江戸時代には、
お祭りや日常の祭儀は
村にある四つのお寺(※)の住職と「前鬼」から来た山伏が、
交互に執り行っていたと伝えらえています。
一方、「天正太平記」にはこの「明神池」について
「(大塔)宮は兎角して、大峰禅定の秘所 池之峯を上がり
転法輪の嶽を過ぎて十津川へ着き給る」
と書かれています。
(正法寺の梅)
また「文明十八年(1486年)佛子教典謹書写之」と記され
山伏の先達(せんだつ)が書いたと思われる
「峯中記(ぶちゅうき)」には
「転法輪嶺、是れより北東に当たって
池の神社という大池あり、この池は、
神代の昔に出池す」との記述があります。
大峯山麓の高台にひっそりとたたずむ
「明神池」と「池神社」は、
「里修験」の中心地であると同時に
「大峯修験」における
「秘密の行場」とみなされていたということです。
(※)祭儀を執り行ったのは
池峰の「龍光寺」、池原の「普門寺(ふもんじ)」、
寺垣内(てらがいと)の「正法寺(しょうぼうじ)」、
桑原の「瀧巖寺(りゅうがんじ)」の四つでした。
(「大峯奥駈道」から「前鬼」に降りる分岐、「太古の辻」)
現在は下北山村のほとんどの世帯が氏子になっている
村の信仰のシンボル。
大祭は4月15日、9月9日、11月3日の年3回で、
その日に最も近い土曜日か日曜日に執り行われています。
中でも11月3日は「子供神輿」も繰り出し、
鄙びた中にも華やぎがある
素朴な村祭りが繰り広げられます。
周遊歩道
(湖畔コースの入り口)
現在、池の周囲には遊歩道が設けられています。
湖畔を歩く平らなコースと、
池のまわりの小高い丘の稜線を歩くコース。
稜線コースからは150m下を蛇行する清流「池郷川」と、
三方を川に囲まれた「池原」の集落が眺められます。
今から20万年前、「川底」が隆起して
標高370mの「峰」になりました。
さらに今から数万~数十万年前に起こった崖崩れで
水がせき止められました。
すぐ近くの「池郷川」から、
これほど高い場所に池があるのはそのためです。
池ができたときは、今の10倍の広さがあったらしい。
(「明神池」の周遊歩道)
天気の良い日は、
遠く北西の空に
「大台ケ原」のなだらかな峰々を望むこともできます。
運が良ければ池のほとりで、
下北山村の村鳥である
カワセミのつがいをみることができるかもしれません。
行程 |
池周遊 湖畔コース 1周約1km (初級~中級コース)
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所要時間 |
湖畔コース一周 約15分~20分 (休憩は含みません) |
(晩秋の「明神池」)
「明神池」を開いた役行者伝説はこちら
「明神池」の七不思議はこちら
「明神池」――「修験の里」の霊的シンボルはこちら
行程 | 池周遊 湖畔コース 1周約1km (初級~中級コース) 池周遊 山コース 1周約2.6km (初級~中級コース) |
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所要時間 | 湖畔コース一周 約15分~20分 山コース一周 約30分~40分 (休憩は含みません) |